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おすすめニュース <キャンパる>社会に巣立つ「ケアリーバー」たち 自立支援で大切なこと

毎日新聞より転載
2025/5/31 08:00(最終更新 5/31 08:00)2705文字

 さまざまな事情から親元で暮らせず、児童養護施設などで育つ子どもたち。その多くは、高校卒業年齢の18歳になると自立を求められ、施設を退所する。しかし昨年4月の改正児童福祉法施行により、原則18歳、最長22歳で退所するという年齢制限が撤廃され、自立が可能かどうかで退所が判断されるようになった。児童養護施設から社会に巣立つ若者への自立支援は十分なのか取材した。【日本女子大・大牛愛子(キャンパる編集部)】

◆つきまとう孤独感 
 児童養護施設や里親家庭などで育った社会的養護の経験者は「ケアリーバー」と呼ばれる。自らもケアリーバーであり、現在ケアリーバーの支援活動に取り組む山本昌子さん(32)=東京都杉並区在住=は、自らの経験を踏まえて「施設を卒業して、相談できる場所があるかないかで、自立できるかどうかは大きく変わると思う」と話す。

 山本さんは両親と3人家族だったが、育児放棄が原因で2歳から18歳まで児童養護施設で暮らした。高校卒業後は保育の専門学校への進学が決まっていたが、18歳の退所間近になって、頼りだった父親が資金提供や山本さんの引き取りができないと分かり、進学を諦めて急きょ、自立援助ホームに移った。

 自立援助ホームは、さまざまな理由で家庭にいられない、また児童養護施設などを退所しても行き場がない原則15~20歳までの青少年が暮らす。「絶対に進学したくて、お金をためるためにとにかくアルバイトで働いた」という山本さん。でも「強い孤独感で、仕事の行き帰りはずっと泣いているような感覚だった」と当時の心境を語る。「さみしくなって児童養護施設に電話をしても『忙しいから』とすぐに切られてしまって。その時はなにくそって、めっちゃ怒っていた」と笑いながら振り返った。

 児童養護施設を退所した直後は、生後間もない頃から築き上げてきた人間関係が一瞬で崩れたように感じたという。「これから人間関係を築いていく意味も生きていく意味も分からなくて、ずっと死にたいと考えていた。それでも育ててくれた人を悲しませたくないという思いでその選択肢は選ばなかった」

◆見えない絆に気づく
 自立支援ホームで1年ほど暮らし、専門学校の試験に再度合格したのを機に、自ら望んで19歳でホームを退所した。ただ1人暮らしを始め自由をつかんだ先に待っていたのは、またしても強い孤独感だった。「家にいて一人で寝て一人で朝を迎えると、世界で一人きりだと感じて動けなかった。家から出られない私を心配した友だちが常に一緒にいてくれて、ようやく生きていることを実感できた」と語る。

 立ち直る転機となったのは、21歳の時に「生い立ちの整理」をしたことだった。その名の通り自分の生い立ちを整理することで、子どもたちの自己理解やアイデンティティーの確立につながると言われている。

 「生い立ちの整理のことは卒業前に施設からもらった冊子や専門学校の授業で知った」という。自分の生きづらさを解決するヒントになるのでは。そう考え、今まで自分に関わってくれた人に積極的に会いに行った。「『私ってどんな子どもだったの』って思い出話をたくさんしていく中で、見えなくても消えない絆があることに段々気づいていった。今までのつながりは無駄じゃなかった、これまで生きてこられたことはいろんな人のおかげだったということを思い出せて、そこからすごく自分が変わった」

◆対面で話すことが大事
 山本さんは専門学校を卒業した後、非常勤で保育士をしながら、経済的に余裕のない児童養護施設出身者に成人式用の振り袖の貸し出しや、振り袖姿の前撮り写真をプレゼントする取り組みを中心に、ケアリーバーへの支援活動を拡大していった。現在は支援に専念し、居場所事業「まこハウス」として児童養護施設出身者や被虐待経験のある人に向けて自宅を開放するなど、幅広い支援活動を行う中で多くの若者と関わっている。

 山本さんは法改正で年齢制限が撤廃され、入所期間の延長が可能になった点について、「私はつらかった時期を公的なサポートなしで乗り越えたけれど、それは厳しいのが現実。18歳で一律に退所するのではなく、延長という形で、徐々に心を整理できる安全な道が用意されたのはいいことだと思う」と語った。

 社会的養護の下で育つ子どもたちに向けては「社会的養護を離れる前に、生い立ちの整理をしたり信頼できる大人を見つけたりしておくことが大切」とアドバイスする。また施設側に対しても「退所にあたって前向きに見える子どもでも、『本当は不安じゃない?』っていう職員からの一言があるかないかで関係性は変わる。物理的な支援は確かに見えやすく、支援者も達成感を感じやすいけれど、やっぱりその子自身を見て会話をすることが一番大事だと思う」と語った。

◆サポートのあり方を模索する施設側
 退所者とコミュニケーション継続を図る取り組みは、今日では多くの自治体や児童養護施設で実際に行われている。東京都世田谷区はケアリーバーに給付型奨学金の給付などを行う支援策を実施しているが、支援を受けるためには2カ月に1度、巣立った施設との面談を要件にしている。

 約50人の子どもが入所している同区の児童養護施設・東京育成園では、施設を窓口として奨学金などが渡される際も、子どもに直接お金を振り込むのではなく取りに来るよう促しているという。高橋直之施設長は「やはりどんな様子なのかは確認したいので、施設に来るよう伝えている。子どもと定期的に会い話を聞くことは、アクティブな生活の様子などを知ることができて楽しい」と語った。

 法改正による施設入所者の年齢制限の撤廃については「ニーズはあると思う。例えば高校卒業間近で入所した子どもなど、半年でも延長することで独り立ちの準備を落ち着いて行える」と話した。ただ、同施設としては入所期間の延長については慎重に取り扱う考えで、「子どもが学生になっても管理の下に置かれることは自由が利きにくいという点でデメリットにもなる。施設側が延長を判断するのは数年に1人だと思う」と語った。

 社会に出たケアリーバーが抱えがちな孤立感を解消するためにどんなサポートが必要だろうか。高橋さんは「特別なことをしなくても大丈夫な子もいれば、どれだけやっても足りない子もいる」と一人一人に合わせた対応の難しさを語った。その上で、「施設出身だからということでそれ専用の相談窓口しかなければ、行く人はおそらく限られてしまうだろう。施設でなくても、いろいろなところで彼らがつながれる場所があり、いろいろな人との出会いがあるといいなと思う」と指摘した。

※転載元
毎日新聞 社会に巣立つ「ケアリーバー」たち自立支援で大切なこと
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